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ミーコワールド

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ほめる

   


<ほめる>

ほめる、というと笑顔で頭を撫ぜてやる事だと思い勝ちである。

特に親ともなれば我が子を褒めるタイミングと褒め方がむずかしい。

私は母を早く亡くした事もあり親戚の家、とりわけ母の姉の家へ

よく泊まりに行った。 叔母も叔父もとても大切にしてくれた。

母の妹もとても良くしてくれた。

今回は母の姉夫婦の事を書いてみたい。

春休みだったか、夏休みだったか定かでないが、私はいつものように

着替えと勉強道具を持って叔母の家へ行った。

ある日、掃除を手伝っていた。

玄関の土間を掃除していた時だった。

いなかの事なのでとても広い土間なのだ。

叔父は盆栽をたくさん持っていた。

その日は良いお天気で下駄箱の上にはこじんまりとした松が

子供の目から見ても良い枝振りで載っていた。

ほとんど掃除が終わって後は下駄箱を拭くだけとなり

私は濡れた雑巾で拭き始めた。

何のはずみか私はその盆栽を落としてしまったのだ。

奥から飛んで来た叔母の顔色がサアっと変わったのを私は見逃さなかった。

私も凍り付いてしまったのはいうまでもない。

叔母は片付けようと一旦はしゃがみ込んだもののすぐ立ち上がって

私に向かってこう言った。

「壊れてしまったものは仕方がない。 おじさんが大事にしている盆栽だけど、

もう元には戻らない」私は立ちすくんた。

叔母はそんな私の頭をやさしく撫ぜながら

「お前はいい子だからおじさんが帰って来たら見つかる前に先にあやまりや」

と言った。 そして

「壊そうと思って壊したのでないから、コレを見たらおじさんも

分かってくれるだろうから言われる前にお前から先にあやまりや。

お前はいい子やからな」と言った。

私は叔父が畑から帰ってくるまで外で待っていた。

叔父はただならぬ私の様子から何か察したのだろうが、

その後の事は壊れた盆栽を見下ろしてボウゼンとしていた叔父を

覚えているだけである。

子供をほめると言ったらよい事をした時だけ、よい成績を取った時だけ、と

思いがちだがこんなほめ方もあったのです。

この叔母との思い出は母とは比べようのない程たくさんの思い出がある。

悲しい思いもさせた。 辛い思いもさせた。

よく泣かれたものだ。

叔母の孫と2歳しか違わなかったからかも知れない。

いいえ、早死にしたかわいい妹の娘だったからかも知れない。

それとも母を亡くした私への憐憫の情が事のほか深かったのかも知れない。

いずれにしろ子供の頃の私は周りの大人の愛情を体一杯に受けて

大きくなった。

それだけに世の中に意地悪な人がいてもすぐ忘れられたし、

慰められる事が一杯あった。

今いろいろと思い出すとなんと幸せな子供時代だったのかと

思わずにはいられない。

子供の身近かにその子にとって良い大人が一人でもいるという事は

大切な事だと思う。

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